制作実績

toi「環 めくるのは」

兵庫県から音更町へ移住し、畑に囲まれた丘の上でパンとコンフィチュールのお店「toi(トイ)」を営む中西宙生さんと貴子さんからご依頼いただき、一家の自宅を含めた新しい場所「環 めくるのは(読み:めぐるのば)」の設計・建築を行いました。

toiを始めた後、パンを買うだけではない場づくりが必要と感じた中西さんの思いを受け、自然環境と人を繋ぐことをコンセプトにした場所をtoiの敷地内に作りました。

広い敷地の中には古い牛舎が建っており、その場所に「牛舎の記憶」を残した建物を建てたい、というのが中西さんのご希望でした。

熟慮の結果、牛舎をリノベーションせずに一度すべて丁寧に解体し、不均一な古材一つひとつに合わせて設計を進めることにしました。

図面に合わせて材料を集めて加工する一般的なやり方とは真逆の方法ですが、
「すべてのものを無駄にしない」という思いを軸に制作を進めました。

 

「牛舎の記憶」として生かしたのは、構造体。
長い年月を経た古材は唯一無二の風格を備え、可能な限り手を加えず再利用することが、素材に対する敬意であると考えました。

古材は主に屋根の構造に使用。
古材に残る昔の職人の仕事、刃物の跡は美しく、図面に合わせて切るものではないと思い、
この素材ありきで設計を進めました。
通常、屋根の構造は同サイズの材を一定の間隔で組みます。
今回は同じサイズのものが一つとしてないため、古材の強度を逐一確認しながら構造計算することで個性的な意匠が生まれました。

牛舎から得た古材のほかにも、中西さんご家族全員で森へ行き、柱材となる木を選んで伐採したり、
建物の脇に立つカシワの木の枝の皮を剥いて手すりに使ったりと、
建てながら材料と向き合い、考え、作り、再び考えながら作り上げた、唯一無二の建築となりました。
手仕事を尊重し、設計と施工を行き来し続けたからこそ、たどり着けた家の個性だと考えます。

古い梁を使った「校倉造り」の収納部屋は、家族の大切なものをしまう中心的な場所に。
この住まいには個室というものはなく、生活に必要なものはこの中に収められます。

自宅建物の一部はギャラリーや楽器演奏など多用途に活用できるフリースペースとなっています。

ここへ来た人たちにとって何かのきっかけになったり、思いを巡らせていただけるような、新しい場所。
次の世代に繋げるための場づくりに携わることができ、おかげさまとしても貴重な経験となりました。

牛舎の記憶を宿したこの建物が、新たなつながりを紡ぐはじまりの場になることを願っています。

 

共同設計/安田建築設計事務所
竣工写真撮影/佐々木 育弥

詳細

所在地 音更町
名称 toi「環 めくるのは」
内容 住宅設計、施工
竣工 2023