北の社寺めぐり

北海道各地に残り独自の建築技法や歴史を持った
宮大工おすすめの社寺建築を巡り、ご紹介します。

帯広市 帯廣神社

帯広川を背に帯広市全体を見守る位置(最地)に鎮座する帯廣神社。街の発展とともに歩み続けながらも、神社の伝統だけにとらわれず現代の流れに沿った魅力的な取り組みを積極的に行っています。おかげさまとのつながりも深く、このたび宮司(ぐうじ)の大野清徳さんのお話を拝聴しました。

帯広開拓の祖、依田勉三が結成した晩成社は1883年(明治16年)静岡から帯広に入植、その2年後に祭礼を営んだのが帯廣神社の創祀とされています。大野宮司は1997年に先代の父親が急逝したことを受け、当時奉職していた神奈川県寒川神社から帰省、27歳の時に帯廣神社に奉職されました。

 

帯廣神社の夏の風物詩となっている花手水。北海道では一番初めに取り入れ、全国の花手水10選にも選出されています。

 

参拝のきっかけづくりが散りばめられた境内に

20年以上もの間、神社の管理運営に携わる大野宮司は、人々に必要とされる場所であるためにどうしたら神社に足を運びたくなるのかを常に考え続けていると言います。その取り組みの一つが境内の整備です。

「ほら、ここには昔クルミの木があってアカゲラの子供が巣立って行ったんですよ」「この辺りは元々草木が生い茂っていて鬱蒼としていたんですが、散策ができるように私が道を作りました」「これはカツラの巨木ですね。葉っぱがハート型をしているので縁結びの絵馬をつくったんです」。大野宮司の案内で神社の境内の中を歩いていると、まるで森の解説員の方といるような楽しい時間が過ぎていきます。

境内は北海道の環境緑地保護地区に指定されており、ハルニレ、クルミ、サクラ、カツラ等の大経木が自生。広い敷地内にはシマエナガやエゾリス、アカゲラ、ムクドリ、シジュウカラ等の小動物や野鳥も生息しています。神社の自然環境が豊かであることはもちろんですが、大野宮司の知識量と楽しく散策するための動線の配慮には驚かされます。

「訪れてくださる方にお話ができるように境内の自然を観察し、調べるようになりました」。

7年前からは自然観察の一環として写真撮影を始め、撮影する魅力に引き込まれ大野宮司。今ではプロ顔負けの写真を撮るほどの腕前です。

「一瞬の表情を捉えるのが、とても難しい」神社の人気者シマエナガ 撮影/大野清徳

神社ではシマエナガをデザインした絵馬やおみくじを授与しています。デザインは大野宮司自ら行い、細部にまでこだわり製作したといいます。その他にも帯廣神社の授与所には「ばん馬」の絵馬や牛や鮭をモチーフにしたユニークなおみくじなど、他では授けることのできない珍しい授与品が並びます。

 

これまでに全国の若手神職者約3,500名が集う神道青年全国協議会に属し、最終的には会長も務めた大野宮司。その活動を通じて全国の神社とつながり、様々な知見を広げたことが今も役立っていると話します。また、会長在任期間には東日本大震災が起こり、仕事の合間を縫うように何度も被災地へと赴き支援活動を行ったそうです。その際、信仰について改めて考えるきっかけになり、また会員同士の情報交換でSNSを使ったことが、現在の帯廣神社の情報発信にもつながっているといいます。大野宮司は数年前からフェイスブックやインスタグラムを積極的に活用し、神社の様々な行事や四季の彩り、野生動物の様子などの情報を自ら撮影した画像とともに随時発信。その反響は大きく、SNSの講師を依頼されるほどです。

大野宮司が撮影しSNSに投稿したライトアップされた拝殿と花手水の画像。

「10年ぐらい前までは情報発信というのは、ほとんどしていなかったんです。でも実際にSNSを使ってみると情報伝達にとても有効だというのが分かりましたので、これはやらなければいけないなと。ただし、ただの告知だけではなくて、それを見て、これは楽しそうだな、参加してみたいと思うような工夫をしなければいけないと思っています」。

 

大野宮司は神社や周辺の自然、地域の歴史に関心を持ってもらうために様々なイベントを企画してきました。その中の一つがおかげさまの菅原と主催して行っているのが「杜小舎(もりこや)」。神社で行う大人の学びの場で、普段は聞くことのできない神社にまつわるお話や楽しい専門的な講義が聴けるとあり好評を博しています。(現在はコロナのため休止中)

 

大野宮司が指差すのは2018年、北海道開拓150年に際し制作された地図。帯廣神社の周辺を歩きながら地域の歴史探索ができるお気に入りの代物。実際に参加者を募り地図上のルートを歩くツアーも開催しました。

様々なアイデアと取り組みを介し神社や地域の魅力を伝えている大野宮司、その思いの原点は「いかに信仰につなげていくか」にあると言います。「観光の参拝者を増やしていくことは、とても大事なことだと考えています。こちらで何かきっかけを作って、それを目的に足を運んでいただく。そこで気づいたこと、感じたことを発信してもらえたら、そこからまた地元の人たちに気づいてもらえると思うんです」。イベントや物はその場の楽しみ、いわば観光的な側面であり、本当に知ってもらいたいのは、長い時間をかけて紡いできた日本のこころ。

日本の伝統的な宗教には人々が物事を考える上での精神的な規範となっていると話す大野宮司。神社には神道、茶道や華道、日本庭園、伝統建築など、先人の知恵や美学が見えないところで凝縮されています。訪れる人のこころを清らかさせてくれる理由は、そういった所にあるのかもしれません。

 

 

 

おかげさまは帯廣神社の本殿・拝殿の千木修理にお声がけ頂きました。

https://okagesama.com/works/帯広神社本殿・拝殿千木-改修工事/

後記

おかげさまでは、毎月末に一ヶ月の感謝を込めて帯廣神社を訪れ参拝と境内の清掃をさせていただいています。

 

詳細

所在地 帯広市
名称 帯廣神社
創建